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レンゲ

922 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE:04/06/29 22:31 ID:LkrRqeP6
父方の実家での昔の話。

俺がまだ5歳の時のことで、その頃はなんでそういうことが起きたかわからなかったが、
いま考えると、その訳が分かるような気がする話。

父方の郷里は和歌山県。
内陸の方で海は無かったが、周囲は田んぼが多く、春になるとレンゲの花が咲き乱れる、素晴らしい所だった。
父の夏休みを利用して、父も久方ぶりに帰郷したのだと思う。
息子に故郷を見せてあげたかったんだろう。
折しも季節は春で、レンゲ草が田んぼ一面に広がっていた。
写真もあるが、ここでの記憶はいまでもありありと心に再現出来るぐらい、
幼心にとって天国のような記憶だった。
ただ一つだけ、当時は納得いかなかったことを除いては。


925 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE:04/06/29 22:43 ID:LkrRqeP6
一面のレンゲ畑で、父方の伯父と叔母、従姉妹と4人で、夢中で花を摘んだ。
従姉妹は手先が器用だったので、花輪を作ってくれたり腕輪を作ってくれたりと、2人で大はしゃぎだった。

その内、俺は広いレンゲ畑を真ん中の方まで、花を摘み摘み歩き回っていた。
レンゲの花の蜜は甘いことも知った。
遠くに伯父叔母、従姉妹が見える場所まで来て、流石にちょっと遠くまで来てしまった。
と思った俺は、戻ろうと両手一杯のレンゲ草を抱えて、元来た道を引き返していこうとした。

ふと背後に目をやると、そこにさっきまでは居なかった筈の人が居た。
詳細までは覚えていないが、青のワンピースを着た女性だった。
「僕?その花お姉さんにくれるかな?」
そう問いかけられた。


927 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE:04/06/29 22:45 ID:LkrRqeP6
俺は両手一杯のレンゲのうち、半分だけその女性にあげたと記憶している。
やはりこれだけ摘んだのだから、全部は惜しかったのだろう。
女性は「ありがとう。僕は一人かな?」と俺に尋ねた。
首を縦に振って、一人だということをアピール。
正直な話、お姉さんが奇麗だったので、ませガキの俺は、その頃からこんな調子だった。
お姉さんは俺がどこから来たのか、とかいくつだ、とかいろいろな事を質問した。

お姉さんも手先が器用で、花輪とかネックレスだとかを作ってくれた。
少し奇妙だったのは、お姉さんの匂いが、土のような湿った匂いがしていたこと。
子供心に変だと思った。

「あっちへ行こうか?」
お姉さんは田んぼの真ん中にある、ちょっとした木立を指差して俺を促した。


928 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE:04/06/29 22:46 ID:LkrRqeP6
もちろん、俺はウェルカムだった。
お姉さんは俺の手をぐいと掴んで、さっきとは違う力を込めた感じで俺の手を引いて行った。
お姉さんの豹変ぶりに、俺は驚いたんだろう。
その手を振りほどこうと、手を上下に振った。
しかし、俺を引っ張る力はますます強くなり、ずんずんと田んぼの木立に向かってお姉さんは進もうとする。
「おじさんにきいてからにするからはなして」と、俺はお願いをした。
お姉さんは最初は聞いてくれなかったが、何回か訴えるとしぶしぶ手を離し、俺を解放してくれた。

俺は伯父さんのいる土手へと走って行った。
レンゲを蹴散らし、少し怖かったので急いで走って行った。


929 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE:04/06/29 22:47 ID:LkrRqeP6
伯父さん叔母さんに、いまあった事の顛末を子供言葉で話すと、伯父叔母は「家に戻ろう」と言った。
俺と従姉妹は遊び足りないので最初はぐずったが、伯父叔母の様子が真剣なので仕方なく家へ戻った。

伯父は従姉妹にプリンを与え、俺の手を引いてまた外に出た。
叔父と一緒に田んぼのあぜ道を歩いた。
そういえば、お姉さんは見当たらなかった。どこにいったんだろう?
そう思いながら、伯父に手を引かれるままにあぜ道を歩いた。

向かう先は、さっきの木立だった。
木立の正体は墓地だった。
田舎によくある二~三の墓地が固まっているような、そんな感じの墓地だった。
伯父はどこから出したのか線香に火をつけ、墓に供えて手を合わせた。
俺も一緒になって手を合わせた。
見ると、墓の周りはレンゲで一杯だった。


930 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE:04/06/29 22:48 ID:LkrRqeP6
ひときわ大きなレンゲの塊と花輪が、地面に半分埋まっていた
「K、あのお姉さんは人じゃねんだ。お化けだ。お前、連れてかれるとこだったんだぞ」
伯父はそう俺に話すと、
「レンゲ遊びはもう今日はやめだ。家でおいしいご飯を食べよう」
と、また元来たあぜ道を、俺の手を引いて家へ帰って行った。
「お化けだったの?あのお姉さん?」と道すがら伯父に聞いたが、
伯父は煙草を呑みながら、何も答えてくれなかった。

その日の晩ご飯は、父も驚くぐらい御馳走だった。
夢中でたくさん食べて、腹一杯で寝た。
多分いま思うに、御馳走でその日の事を忘れさせようとしたんだと思う。

夢の中に、あのお姉さんが出てきた。
ひどく残念そうな顔のお姉さんは、「またね」と夢の中で俺に話しかけてきた。

次の日は、レンゲ遊びはしなかった。
代わりに、伯父が海へ連れて行ってくれた。

死ぬほど洒落恐じゃないかもしれないけど、
不思議で、いま思うとちょっと物悲しい子供の時の思い出話でした。
結局それ以降、レンゲ畑で遊んだ事は無かったです。
いまではマンションが建って、レンゲ畑は見る影も無いそうですが、お墓はまだあるという事です。


945 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/06/29 23:46 ID:lu7X+bJ5
>>930
ちょっと物悲しいどころか、怖いよ・・・
その女の人の素性は、分からずじまいなの?


946 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE :04/06/29 23:57 ID:LkrRqeP6
>>945
うん。わからないままだ。伯父も答えてくれなかったし。
聞き出そうと、いまでも酒飲ませたり接待wしてるんだけど、未だに答えは無い。

ただ、『この世の人ではない』ってのは確かだし確信してる。
寂しかったんだろうねぇ。俺と遊んでくれたし。
俺なりの答えは、無縁仏か、供養に来てくれなくなった墓の主なんだろうと思う。
いまでもあの寂しそうな顔が忘れられないのよ。まじで。

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